あ 朝だ ……寝る前は 今日は 永遠に 来ないだろうと 昨日が いつまでも 続くだろうと 思っていたのに 気がついたら もう今日だ どうして 今日が 来るのだろう また一日 生きてしまった 仕事へ 行かなくちゃ…… ドーナツ 工場 スガタさん なんだ ……先輩も この 何も考えずに 生きているような 先輩も やはり 考えた事が あるのだろうか なんのために生きて なんのために生まれるのか なんのために 生きて…… うん? なんのために 生まれるのか 考えたことが ありますか あるよ ほんとですか ああ ほんとだ おれは 三年前 インドに 自分探しの 旅に行った ガンジス川の 大いなる流れを見て おれは自分の 小ささを 知った 火葬した骨を ガンジス川へ 流すとき おれもいつか ガンジス川へ 帰っていくんだろうと 思った 生命の サイクルを 感じたんだ ……すごいですね というのは 嘘で よく聞く 話だが おれはちっとも 感動しなかった 本題は そうじゃないんだ 本題は その時おれが アンマンマンに 会ったっていう ことなんだ アンマンマン? 知っているだろう アンマンマンは ニクマンマンの 双子の兄弟で 肉まん業界の 覇権を競い合っている 正義のヒーローだ ……TVアニメだ ……それが どうして インドに? 知らん いや…… すべての 苦しむ人を 救うのが アンマンマンの 使命だろう だから彼は どこにいても 不思議じゃない 世界中の どこにでも 苦しむ人がいれば アンマンマンは やってきて 自分の あんまんを あげるのだ …… さて おれは 腹が 減っていた アンマンマンの あんまんを もらおうと 思ったのさ それで彼に 近づいていった アンマンマンは 何語で話すのか 分らなかったが とりあえず日本語で 話しかけてみた 「あんまんを ください」 「もちろん いいとも」 アンマンマンは 逡巡せず ノータイムで あんまんを くれた もちろん自分の あんまんをだぜ おれはアンマンマンの あんまんを あますところなく 食べたんだ そして 気がついたら アンマンマンは いなくなっていた 当然だ アンマンマンは あんまんで できているのだから 全部食べてしまえば なくなってしまうに 決まってるんだ おれは 途方にくれた いくら 腹が減っていたとはいえ 正義のヒーローを 全部食べてしまうとは おれはじゃあ アクダマキンマンでは ないか…… いや アクダマキンマンより もっとひどい アクダマキンマンは アンマンマンの中身を 悪玉菌にしてしまう だけだが おれはアンマンマンという 存在そのものを 食べ尽くして しまったからだ おれは慙愧の念に かられた 心から アンマンマンに 謝りたいと 思った だが アンマンマンは もういないのだ おれが 食べ尽くして しまったから 「アンマンマン 新しい具だよ!」 と言って 具を投げてくれる 具おじさんも いないのだ ここは現実だから アニメに出てくる アンマンマンとは 違うのだ…… アンマンマンは もういない おれが 殺して しまったんだ …… …… インドから 帰国したおれは プー太郎をやめ この ドーナツ工場に 就職した お金を貯めて しなくちゃならないことが あるからだ ……なんです? 罪ほろぼしさ おれにしかできない 罪ほろぼしが あるからだ 後輩よ おまえには 教えてやろう おれは 金が貯まったら アンマンマンに なるつもりだ おれの体の すべての細胞を あんまんに変えて 新しい アンマンマンに なるつもりなんだ そう 考えてみれば どうしてあんなに アンマンマンが 長生きなのかも 合点が行く スポンサーが ついてるから? いやいや 教育に ふさわしいから? いや どれも 不正解だ それはみんなが アンマンマンを 引き継いできたからに 他ならないんだ だれかが アンマンマンを 食べ尽くして しまったら その誰かが アンマンマンに ならなくちゃ ならない それがアンマンマンの 絶対の掟なんだ その時おれは ガンジス川を見るよりも もっとはっきりと 生命のサイクルということを 悟った アンマンマン だけじゃない 誰もがこうやって 誰かの命を 引き継いで 生きている アンマンマンは その象徴に 過ぎなかったのだ もう分かっただろう なんのために生きて なんのために生まれるのか それは 誰かの命を 引き継ぐために生れ 誰かに命を 引き継ぐために生きるのだ それがおれたちだ 今日 10月分の給料が入る そしたら おれは工場を辞め アンマンマンに なるつもりだ さらばだ 後輩 おまえの生きる目的が 見つかることを 祈るよ そしてもしお前が 腹をすかせて アンマンマンに 出会ったら その時は よろしく 頼むぜ じゃあな なんのために生きて なんのために生まれるのか 分らないまま…… アンマンマン 教えてくれ アンマンマン きみは 知っているのだろう 歌っているぐらいだから 知っているのだろう 教えてくれ おれに 教えてくれ……